工芸の次世代スターを探せ!

FRESH PLAYER’s FILE

自然のなかで感じる心地よい瞬間を日常に

Fresh Player’s File vol.2
五嶋穂波(陶芸作家)

花のやわらかさと、光のあたたかさを焼きものに写し取る

いまにもふわりと花房がほころびそうな、やわらかい表情に惹かれる《flowering I》。焼きものとわかっているのに、生花に触れるときのようにそっと手で包みたくなる――。そんな軽やかさとしなやかさ、そして含みのある優しい色合いが、五嶋穂波さんの作品の魅力だ。

《flowering IV》2023年/約W20✕D20✕H8.2cm

「インスピレーションの源は、自然にあるもの、やっぱりいちばんは花です。軽やかで、やわらかく、色も育っていくうちに、薄い白だったのが少し緑がかり、枯れていくと薄い黄色やピンクになっていく。そういうものを『素敵だな』と思うんです。あとは温度感。あたたかい感じや、光が交差して心地よさを感じる瞬間を作品に採り入れたいと思っています」。

五嶋さんは、石膏などでつくった型に、板状の土「タタラ」を押し当てて成形する「タタラ作り」と呼ばれる技法を用いるが、花の彫刻のような器のシリーズはさらに複数のパーツを組み合わせ、指を使ってかたちをつくっていくのだそう。作品の有機的な曲線や、やわらかなゆらぎは、美しい花や光を五嶋さんの指先が繊細に捉え、写し取ったかたちなのだ。

日々の営みのなかに、心地よさを


彫刻のような器のシリーズのほかに、五嶋さんは日常使いしやすい皿や小鉢、カップなども手掛けている。1点1点、色のニュアンスも表情も異なる器たちは、はっとするような空の色と瞬間的に出会ったときのような、多幸感にも似た感覚を与えてくれる。お茶を飲むとき、料理をよそうとき、お菓子を口に運ぶとき。日々の何気ない営みのなかで目にする度に、ふわりと気持ちがほぐれそうだ。

《浅鉢 花筏》2023年/約W20.5✕D20✕H5cm

五嶋さんの作品には一貫して「心地よさ」があり、それは五嶋さん自身が陶芸の道に進むときにも求めていたものでもある。

「大学の途中までは陶磁作家になろうとは考えていなかったんです。でも、自分の強みや得意なこと、好きなことってなんだろう? と考えるうちに『心地よい仕事』ができたらいいなと。それは私にとって、何時間でも没頭してやり続けられるかどうかが指標でした。淡々と、コツコツと静かにできる仕事、そして手を動かすことが好きなんですよね。実家が窯元なので、器に囲まれて育ったことも影響していると思います」。

作家としての新たな挑戦を促す舞台

手前から《一輪挿し せせらぎ》《花器 花筏》《花器 雲影》/すべて2024年

《花器 雲影》ディテール

大学卒業後に多治見市陶磁器意匠研究所の研究生となり、陶芸の道へ進んだ五嶋さんが「ファースト・パトロネージュ・プログラム(以下、FPP)」に参加したのは、研究所の卒業年のこと。

「FPPに参加できたことは、制作の面でも、発表の面でも大きな影響がありました。まず制作の面で言えば、当時は手におさまるものしかつくっていなかったのですが、FPPを機に大きなものに挑戦してみよう、やったことのないことに挑戦してみようと思えたんです。つくってみると、難しくて、手間もかかりましたが、新しい発見がたくさんありました。チャレンジするきっかけをくださったことに、とても感謝しています。そして発表の面では、あれだけ多くの方に見ていただくのは初めてでした。FPPに来られた方が、百貨店やアートギャラリーの方に紹介してくださったりして、今に繋がっています」。 五嶋さんの作品そのものに魅力があったことは言わずもがな、さらに制作の幅と発表の場が広がる起点にFPPという舞台があり、飛躍する背中を押した。現在では各地の百貨店、ギャラリー、器などのセレクトショップでの催事や個展で五嶋さんの作品との出会いを待ちわびている人たちが多くいる。

《茶碗 遠景》2023年/約W11.8✕D11.5✕H7.8cm

《華甲棗》2023年/約W70✕H75mm

《茶碗 遠景》は、FPPを主催する一般財団法人川村文化芸術振興財団・川村喜久理事長の還暦を祝う「華甲(かこう)茶会」のために制作したもの。五嶋さんらしいやわらかさを含みつつ、凛とした気配をまとっている。

「実は、この茶碗の色は今までの作品とは少し違う色に挑戦しています。ふだん制作している作品では、春や夏のイメージのものが多いのですが、9月末に催される茶会だったこともあって10月の山の遠景をテーマに制作しました」。  作品の幅を広げるきっかけになったFPPから約3年後――。その間に「心地よい」風景やものを敏感に捉え、作品と向き合い、手を動かし続けた結果、さらに新しい表現に辿り着いた五嶋さん。これから出会う「心地よい」風景や瞬間の体験をどのようなかたちで届けてくれるのか、新しい季節を待つように胸が踊る。

 

 取材日:2024年2月14日
取材・文 小西 七重

五嶋穂波/ごしま・ほなみ(陶磁作家)
1996 栃木県瑞浪市生まれ、在住
2019 国際基督教大学 教養学部 卒業
2021 多治見市陶磁器意匠研究所 デザインコース 修了
「ファースト・パトロネージュ・プログラムVol.5 2021 秋」(3331 Arts Chiyoda/東京)参加
「やきものの現在 土から成るかたち in KOGEI Art Fair Kanazawa 2021」(Hyatt Centric Kanazawa/石川)
2022 多治見市陶磁器意匠研究所 セラミックスラボ 修了

[主な展覧会]
2021 「ファースト・パトロネージュ・プログラムVol.5 2021 秋」(3331 Arts Chiyoda/東京)
   「やきものの現在 土から成るかたち in KOGEI Art Fair Kanazawa 2021」(Hyatt Centric Kanazawa/石川)
2022 「多治見市陶磁器意匠研究所 卒業制作展 2022」(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス/岐阜)
2023 「マイ・ファースト・アート展 Vol.2」(伊勢丹新宿店 アートギャラリー/東京)
   「新しい風 -ishokenのデザインと表現-」(ジェイアール名古屋タカシマヤ 美術画廊/愛知)
   「ishoken の造形 やきものの現在 2023」(多治見市文化工房ギャラリーヴォイス/岐阜)
2024 「新しい風 -ishokenのデザインと表現-」(日本橋高島屋S.C. 美術画廊/東京)

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