第8回を迎えるファースト・パトロネージュ・プログラム(FPP)。今年、2025年のテーマは、工芸の新時代を拓く・若き才能『「お茶(和・洋・中)」をめぐる創作』 です。
茶器や器物だけでなく、空間や物語を通じてお茶を表現するなど、幅広いアプローチが期待されます。今年は過去最多の応募が寄せられ、どの応募者も高いクオリティを誇りました。審査員は熱い議論を重ね、陶芸・漆芸・染織・ガラス・木竹工の各分野から22名の作家を選出。その中から本記事では、特に注目したい10名をご紹介します。
ファースト・パトロネージュ・プログラム(FPP)第8回 2025冬 〜工芸の新時代を拓く・若き才能『「お茶(和・洋・中)」をめぐる創作』〜 日程:2025年12月4日(木) / 14:00–19:00 / 5日(金)10:00–18:00 / 6日(土)10:00–17:00(入場〆切) 会場:KITTE B1F 東京シティアイ パフォーマンスゾーン(東京駅直結) 入場無料・展示即売 主催:一般財団法人川村文化芸術振興財団 共催:香川県、塩尻市 協力:一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパン |
FPPとは?
ファースト・パトロネージュ・プログラム(FPP)は、無名の若手工芸作家が活躍し羽ばたくための“最初の一歩”を支援する取り組みです。2017年に一般財団法人川村文化芸術振興財団によって立ち上げられ、2025年で8回目を迎えます。第一線で活躍する工芸家、および工芸教育機関で後進育成に携わる方々、工芸産地を擁する自治体から推薦いただき、審査員が将来性ある40歳未満の作家を選出。会期に向けて新作を制作し、展示・販売します。来場者は作品を購入することで支援者=「ファーストパトロン」となり、その証として作家からのメッセージ入りカードを受け取る仕組みです。購入は単なる消費ではなく、「育てる文化」への参加につながります。
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注目の作家紹介
今回ご紹介する作家へのコメントは、この記事のために9月に行った「審査員トーク」からの抜粋です。工芸・アートの世界の第一線で活躍する重鎮たちが、それぞれの視点から語った言葉を交えつつ、注目の10名をご紹介します。
2025年審査員 黑田耕治 氏(しぶや黒田陶苑) 小山登美夫 氏(TOMIO KOYAMA GALLERY) 遠山正道 氏(株式会社スマイルズ) 福田朋秋 氏(髙島屋京都店美術部) 山田遊 氏(株式会社メソッド) |

市川恵大(いちかわけいた)|自然と炎が生む器
岐阜県出身、飛騨高山で作陶を続ける市川恵大。野焼きによる白色土器や、みずみずしい青の星釉陶器を制作しています。審査員の黑田さんは「野焼きの表情が面白い。吸水性の問題も工夫でクリアしている」と評価。「平面的な作品や、漆や金属との素材を組み合わせた展開もおもしろいのでは」と期待を寄せました。審査員の遠山さんは「石ころの形をした一輪挿しを買いたい」とコメント。今回は白色土器をメインに茶盌、壺、皿を出品します。
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井上菜々子(いのうえななこ)|物語をのせたティータイム
「ティータイム」をテーマに、実用性を織り込んだメルヘンチックなジオラマ作品を制作。審査員の遠山さんが「怖いもの見たさ」と語れば、福田さんは「お茶を飲みながら皆で物語や仕掛けを楽しむ新しいお茶会のよう」と評価しました。独特の世界観に遊び心を加えた作品は、建物や生き物を眺めながら物語を追体験できる仕掛け。今回はカップやポットとジオラマを組み合わせた新作を発表予定で、来場者を幻想的なティータイムへと誘います。
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下城爽(しもじょうあきら)|急須に挑む若き陶芸家
熊本出身の下城爽は、素材の採取から土作り、窯作りまで自ら行い、急須や器に挑んでいます。審査員の福田さんは四日市の急須名人を思い出したと語り「急須は繊細で複雑な工芸品。東京藝大を出て急須に挑む作家は珍しく、徹底的にこだわって作って欲しい」とコメント。写真だけでは伝わらない精緻な造形や、茶漉しの穴まで手を抜かない姿勢に高い期待が寄せられています。今回は急須や茶器を中心に、伝統を現代に引き寄せる新作を出品予定です。
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中谷まこ(なかやまこ)|九谷焼に咲く文様の華
石川県出身。九谷焼の絵付けを学び、古典的な文様を現代の生活に取り入れる作品を制作しています。審査員の黑田さんは「模様のセンスが非常に良い。特に花瓶の口縁装飾はおしゃれで独自性がある」と高く評価。「彩色描画の作家は多いが、この口元の装飾表現は他にない。さらに深めれば特色になる」と今後に期待を寄せました。伝統的な古典柄に現代的な感覚を重ねる中谷さんの作品は、生活の場にさりげない華やぎを添えてくれます。
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荒川莉沙(あらかわりさ)|漆とともに歩む再出発
栃木県出身で石川県輪島市在住の荒川莉沙は、能登半島地震で作品を失い、現在は地元の工房に寝泊まりしながら制作を続けています。審査員の山田さんは「産地ごとに課題がある中で、戻って制作を続ける想いはとても大切」と語り、復興と継承の両面でエールを送りました。彼女は「まずは制作を続けたい」という強い思いで作品に取り組み、新たな漆作品を携えて再出発の舞台に挑みます。

呉 雯雯(ご ぶんぶん)|デジタルと漆の架け橋
漆工芸とグラフィックデザインの知識を融合させ、レーザーカッター技術などを漆作品に取り入れる呉雯雯。審査員の黑田さんは「CADのような表現で距離感や空間を感じさせる。新しい漆の表現の時代が来るかもしれない」と話し、ザラザラとした独特の質感や、あしで(平安時代から行われた文字と絵を組み合わせた装飾的な文様や書体)のモチーフなどを高く評価しました。過去・現在から未来をつなぐ表現で、伝統的な漆芸に新風を吹き込みます。
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内木悠未(ないきゆうみ)|木地に宿る静謐
ろくろで木を挽いて器や道具の形を作る伝統技法を受け継ぎ、漆の仕上げによって木の表情を引き出す内木悠未。端正なフォルムと木目の美しさを活かした作品が特徴です。審査員の福田さんは「誠実な作品。フォルムが本当に美しく、木目を活かしながら品のある表情を出している」とコメント。形の精度や品格に工芸の本質が表れていると評価しました。漆仕上げによるグラデーションを活かした木地作品が出品される予定です。
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日野勇輝(ひのゆうき)|漆で風景を描く
石川県輪島市出身。蒔絵技法をベースに、花や自然の風景を漆で表現します。審査員の黑田さんは「ポートフォリ作品で見たドクダミの花の連続模様のセンスが良い。漆の質も非常に良く、技術力が高い」とコメント。飾り箱や小物にも確かなセンスが光り、「連続模様の展開をもっと見たい」と期待を寄せました。日常に取り入れやすい上品な漆作品を通じて、漆の新しい可能性を提示します。

みなとふさこ|物語を紡ぐ漆作品
絵本のような物語性をもつ漆作品を手掛けるみなとふさこは、審査員の声を受け代表作である「マッチの木」シリーズを中心に出品予定。このシリーズについて、審査員の遠山さんは「審査会の時以来、今日また見ても相変わらず好き」とコメントしました。会場には、暮らしの中でふと物語を感じさせる漆作品が並びます。

河野香奈恵(こうのかなえ)|鮮やかに織りなす布のかたち
愛媛出身の染織作家、河野香奈恵は、鮮やかな色彩と立体感ある模様で、茶の時間を彩る作品を制作します。審査員の黑田さんは「今回の中で一番好きな作家。さらっとお茶を楽しむ層にもツボにはまるだろう」と絶賛。「袱紗袋が非常に良い、自分も欲しいし他の人にも勧めたい」とも話しました。今回は「空想茶箱」シリーズや袱紗袋、染織小物などを出品予定です。
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次のステージへ羽ばたく作家たち
FPPは単なる展示販売にとどまりません。過去の出展作家が百貨店の企画展やアートフェア、ギャラリー個展へと活躍の場を広げる事例が数多く生まれています。たとえば「artKYOTO」「NEW TWIST」「美の予感」などを通じ、新しいコレクターやファン層へとつながったケースも。FPPは若手作家にとって社会への登竜門であり、成長の舞台となっています。
FPP出展作家の活躍や広がりは、公式サイトTOPICSでも紹介しています。そうした歩みの出発点を、会場で“最初の一歩”として目撃できるのがFPPの大きな魅力です。
未来の工芸スターを“いち早く見つける”チャンス。人気作品は早い段階で完売が予想されるため、気になる方は初日に訪れるのがおすすめです。
さらに楽しむコツは、事前に公式サイトで作家プロフィールや推薦者コメントをチェックしておくこと。気になる作家を探してから会場を巡れば、新しい出会いがより豊かになります。SNSでも最新情報をお届けしています。ぜひチェックしてくださいね。
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ファースト・パトロネージュ・プログラム(FPP)公式インスタグラム
https://www.instagram.com/fpp.kacf/