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FRESH PLAYER’s FILE

必然と偶然の交差点で 生まれる有機的な美しさ

Fresh Player’s File vol.3
宮本崇輝(ガラス作家)

《とろとろ》2021年/w85✕d135✕h150mm

暮らしに寄り添うオブジェのような器

 水滴が滴る瞬間で時が止まったような、宮本崇輝さんのガラス作品《とろとろ》。日常使いできる花器でありながら、オブジェのようでもあるこの作品は、2021年のファースト・パトロネージュ・プログラム(以下、FPP)にも出品され、反響を呼んだ。「暮らしの中で潤いを感じられるような、少しどきっとしたり、ワクワクしたりするようなものがつくれたら」と、宮本さんは語る。
 宮本さんの作品には、《とろとろ》のような透明なガラスの「ニュートラル」シリーズをはじめ、色を使ったものなど、いくつかのシリーズがあるが、どれも自然の風景のなかで有機的な美しさや驚きに触れたときのような印象を受ける。

《Neutral ワイングラス》2023年/約φ90✕h160mm 

最近(2024年2月現在)手掛けているという「ニュートラル」シリーズのワイングラスの制作過程を聞くと、その理由の謎が少し溶けた。一見、シンプルなワイングラスだが、あらゆる曲線がとてもやわらかで、グラスのボウル部分はふっくらとした蕾のよう。
 「ワイングラスは通常、金属の道具を使って口をぐいっと広げるのですが、《Neutral ワイングラス》は極限までシンプルな方法でつくっていて、できるだけ道具は使わず遠心力と重力だけを使って口を広げています。溶けたガラスというのは、非常に柔軟で躍動的なのですが、それを”器に起こす”というイメージ。ただ、これが非常に難しい。コントロールはしているけれど、半分ガラスにゆだねているような手法なので、道具を使うとき以上にひとつひとつの工程がパーフェクトに進まないと心地よいかたちが生まれないんです」。
ガラスという物質が自然の法則によってかたちを変えた姿。コントロールとアンコトロールの繊細な境界線で生まれるものだからこそ、宮本さんの作品には独特の美しさが宿っている。

最近(2024年2月現在)手掛けているという「ニュートラル」シリーズのワイングラスの制作過程を聞くと、その理由の謎が少し溶けた。一見、シンプルなワイングラスだが、あらゆる曲線がとてもやわらかで、グラスのボウル部分はふっくらとした蕾のよう。
 「ワイングラスは通常、金属の道具を使って口をぐいっと広げるのですが、《Neutral ワイングラス》は極限までシンプルな方法でつくっていて、できるだけ道具は使わず遠心力と重力だけを使って口を広げています。溶けたガラスというのは、非常に柔軟で躍動的なのですが、それを”器に起こす”というイメージ。ただ、これが非常に難しい。コントロールはしているけれど、半分ガラスにゆだねているような手法なので、道具を使うとき以上にひとつひとつの工程がパーフェクトに進まないと心地よいかたちが生まれないんです」。
ガラスという物質が自然の法則によってかたちを変えた姿。コントロールとアンコトロールの繊細な境界線で生まれるものだからこそ、宮本さんの作品には独特の美しさが宿っている。

色と技が織りなす、唯一無二の文様

《水平線の記憶 グラス》2022年/約φ75✕h120mm

《水平線の記憶 冷酒グラス》2023年/約φ70✕h70mm

こちらは色を使った《水平線の記憶》シリーズ。鉱石のような、はたまたどこかの星のかけらのようなグラスは、6〜7層の色ガラスの層をつくり、半分をサンドブラストで削ることで複雑な文様を生み出している。
「色のガラスを使うときは、レイヤーを重ねて仕事をしていくことが多いのですが、表面にたくさんの色のレイヤーをつくって削っていく方法は、漆にも近いなと思います。変塗(かわりぬり)や、唐塗(からぬり)なども、研ぐことで下の層の漆が見えてサイケデリックな文様が生まれますよね。もともとそれを意識していたわけではないのですが、この作品を制作しているときに、変塗を手掛けている人と話をしていて『あ! 漆のやり方に似ているんだな』と気づきました」。

《アブストラクトパターン》2022年/約φ90✕h220mm

空のような美しいグラデーションの花器。雲のように表面に浮かぶ無数の凹凸が、表情に奥行きを生み出している。この凹凸は、吹いたガラスの表面に点描のように木工用ボンドをつけ、隣り合うボンドがくっつくことで文様が生まれていくという。
「全体的にこういう文様をつくりたい、というのは僕の頭の中にはっきりあるのですが、細かなディテールはコントロールしきれないところにあります。この文様は、ボンドの表面張力で偶然的に生まれるもの。色をレイヤーで使っている《水平線の記憶》シリーズとは、まったく技術的なアプローチが異なりますが、偶然的に生まれるものと、僕がコントロールする必然的なもの、そのバランスを探りながら制作するというのは同じですね」。

《刻》2023年/約φ125✕h185mm

さまざまな色ガラスが年輪のように文様を刻む《刻》シリーズは、ベネチアングラスの技法と、《水平線の記憶》シリーズで用いた色ガラスをレイヤーで重ねる技法を組み合わせたもの。
「僕が暮らす富山には、長い年月地中に埋まっていて、天然記念物の地質鉱物(化石)に分類されている埋没林があるんです。博物館に展示されている、年輪がとても細かくて複雑な埋没林を見たときに、時間を積み上げていくことの重さのようなものを感じました。ガラスはレイヤーでつくっていける面白い素材なので、時間を刻んでいくようなことを表現できたらと《刻》シリーズが生まれました」。

海外での経験が独自の表現を生み、発表の場が繋がりを生む

透明なガラスの「ニュートラル」シリーズも、色ガラスを用いたシリーズも、一貫して必然性と偶然性との心地よい交差点を探る宮本さん。表現したいことに合わせて、さまざまな技法を研究・採り入れていくスタイルには、デンマークなどの海外での経験も大きく影響しているそう。
「技術を学びたくて海外に行きましたが、いちばん学んだのは日本について学ぶ姿勢だったかもしれません。自分のアイデンティティやバックグラウンドをすごく考えるようになりました。《水平線の記憶》シリーズの、色をレイヤーにする方法はデンマーク時代に制作したのが始まりです。漆に似ているという話をしましたが、当時は陶芸の要素を感じながら制作していました。陶芸の釉薬は、窯の中で炭素の影響を受けて不思議な表情を見せていきます。釉薬はガラス素材ですし、同じようなことをガラスでもできるのではないかと考えました。加えて、祖父が陶芸をやっていたことも影響して、日本人だからこそできる表現を探していたんです」。

《Feel the Nature Wine glass》2022年/約80✕80✕h150mm

制作の中に、コントロールできない偶然性を加えることも、日本で生まれ育ったことに向き合った結果だった。

「富山ガラス造形研究所で、アメリカ人の先生のアシスタントをしていたのですが、先生の教え方がとても合理的で。つくりたいもの、明確なゴールが先にあって、そこに行くためのプロセスを数学のように構築していくんです。それはとても素晴らしいことなのですが、一方で自分の中にはプロセスを楽しみながらゴールに向かっていくようなところもあるなと。日本語も動詞が最後に来たりして、話を最後まで聞かないと過去かどうかもわからないようなところありますよね? なんとなく、ゴールありきというよりは、プロセスを経てゴールに向かうという思考のクセが日本人にはあるのかなと思ったんですよね」。

 これまでの経験がすべて、自身の制作スタイルに繋がる――。それは表現方法だけでなく、新しい気づきや発表の場所にも広がっている。宮本さんは2018年と2021年のFPPに参加。初回に参加したときに交流した参加作家とは現在、一緒に仕事をすることもあるという。
「同世代やもっと若い世代で、違う素材だけれども真剣に向き合っている作家たちの活動を、同じ場所であれだけたくさん一緒に展示できたことは、とても刺激になりました。そこで生まれた繋がりは、今にも繋がっていて、例えば2018年に一緒だった京都でギャラリー『SALUK(サルック)』を主宰する金属工芸家・甲斐可奈子さんとは、一緒に仕事をさせてもらったりもしています。FPPを起点にして、今に続く人の繋がりができている部分もありますし、自分の活動を見てくれている人がいるというのもとても嬉しく、とても貴重な機会だったなと思います」。

 取材日:2024年2月10日
取材・文 小西 七重

宮本崇輝(ガラス作家)
1985 東京都東村山市生まれ、富山在住
2010 多摩美術大学工芸学科 ガラス専攻 卒業
    高橋禎彦グラススタジオ 制作助手
2011〜2015 あづみ野ガラス工房
2012 第5回 現代ガラス展 入選
2015 第6回 現代ガラス展 入選
2016  Tobias Møhl & Trine Drivsholm Glas(デンマーク)
2017  The Royal Danish Academy アーティストインレジデンス(デンマーク)
2018〜2021 富山ガラス造形研究所 助手
2018 「ファースト・パトロネージュ・プログラムVol.2」(KITTE丸の内/東京)参加
    第7回 現代ガラス展 入選
2019 国際ガラス展・金沢2019 入選
2020 第8回 現代ガラス展 入選
2021〜 富山ガラス工房 勤務
2021 「ファースト・パトロネージュ・プログラム Vol.4」(オンライン)参加
    国際工芸アワードとやま 特別賞受賞
2023 第9回 現代ガラス展 入選

☆個展 
2013 「とろけてゆらめく」 スペースユイ/東京
2014 oco gallery/金沢2017 「Atmosphere of colors」 スペースユイ/東京
2018 「SPROUT ̏Atmosphere of Bomholm”」 スペースユイ/東京
2019 「Sense of distance ̏ガラスとの対話”」 スペースユイ/東京
2020 「Glass TAKAKI MIYAMOTO EXHIBITION」 スペースユイ/東京
2021 「Llife is beautiful」  スペースユイ/東京
2022 「Takaki Miyamoto Glass Exhibition ~communication~」 スペースユイ/東京
    creva/金沢
2023 「Feel the nature」 スペースユイ/東京 
2024 「いろ、イロ」 スペースユイ/東京

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